一度聞いたことは、二度と聞かない
会社員だった頃、私は自分に一つの謎ルールを課していました。
「一度聞いたことは、二度と聞かない」
三十代になり、人へ仕事を教えることが増えていた頃です。
同じことを何度も聞かれると、だんだん声が冷たくなる。
「それ、前も言いましたよね?」
今思うと、なかなか感じが悪い(笑)
しかも、そういうときに限って相手は平然と、
「え、聞いていませんけど」
と言うのです。
私はあなたのノートの場所まで覚えている
「いや、ここに書いてあります」
相手のノートを開き、その部分を指さして見せたこともあります。
私は、あなたのノートのどこに書いてあるかまで覚えている。それなのに、なぜ本人が覚えていないのか。
当時の私は、職場でずいぶんピリピリしていました。
尖ったナイフのようでした、と書くと少しかっこいいですが、周りからすれば、ただ近寄りにくい人です(笑)
あの頃の私は、自分にできることは、相手にもできて当たり前だと思っていました。
私もやっているのだから、あなたもやってほしい。
もっと気をつければできるはず。
できないのは、努力が足りないから。
そんなふうに、私の台本を相手にも配っていたのです。
自分ばかり損している
「なんでできないの?」という苛立ちの奥には、別の声が隠れていました。
私ばかり損をしている。
自分は間違えないように気をつけてきた。わからないことがあれば、自分で調べた。人に迷惑をかけないようにしてきた。
だから、同じようにしない人を見ると腹が立つ。
相手の失敗に怒っているようで、実は「私はこんなに頑張っているのに」という自分の苦しさが反応していたのだと思います。
相手を厳しく見ているとき、自分にも同じくらい厳しいことがあります。
職場の人が仕事を覚えない問題と、私が一度で覚えなければと踏ん張ってきた問題。
同じ舞台にあるようで、別の話です。
この人は、私ではない
あるとき、ふっと思いました。
「この人は、私ではないんだ」
当たり前のことなのに、そこが抜けていました。
私には簡単なことが、この人には難しいかもしれない。逆に、その人が何気なくできることを、私は苦手としているかもしれない。
そう思うと、自分の「当たり前」は、それほど当たり前でもないように見えてきました。
だからといって、何度聞かれても笑顔で教え続けなければならない、という話ではありません。
メモの取り方を変える。手順書を作る。担当を調整する。必要なら、できないことをきちんと伝える。
現実の対応はしていいのです。
ただ、相手を自分と同じ人間にしようとする力が少し抜けると、打てる手も見えやすくなります。
同じ会社、同じ部署、同じ仕事。
それでも、持っている台本は一人ずつ違います。
誰かに「なんでできないの?」と思ったときは、相手の能力を考える前に、自分がどんな当たり前を握っているのか、のぞいてみてもいいかもしれません。
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